残業時間を人事評価時にどう扱うべきか、迷っていませんか?
- 長時間働く社員を高く評価してきたが、これで本当に良いのか
- 残業削減を掲げながら、評価制度が変わっていない矛盾
- 残業代が減ると社員が反発するのではという不安
この記事で紹介する評価の考え方を実践すれば、残業時間に頼らない人事評価制度を設計できますよ。
厚生労働省の好事例集でも、時間管理を評価に組み込んだ企業ほど実労働時間の短縮と生産性向上を実現していると報告されています。
記事前半では残業評価の問題点と現状把握の方法を、後半では評価制度の具体的な設計とDX活用の方法を解説するので、じっくり読んでみてくださいね。
結論|残業時間は評価指標にしない
残業時間を人事評価の点数に直接入れてはいけません。
時間外労働は原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間以内に上限規制されており、時間外労働が月100時間超、または2〜6か月平均80時間超になると「過労死ライン」に該当します。
つまり、残業時間は「多いほど評価」ではなく、「一定以上は健康・法令リスク」という扱いが公的にも明確になっています。残業時間でプラス・マイナスをつけない方針を、評価制度でも示す必要があります。
評価は「成果・時間・協働」の3軸
人事評価は次の3軸で構成することをおススメします。
成果
何をどれだけ達成したかです。売上・案件達成度・プロジェクト完了率など、職種に応じた定量・定性指標で測ります。
時間
成果をどれくらいの時間で達成したかです。短時間で成果を出したか、多残業になっていないかを見ます。ここで重要なのは、「残業が少ない=即プラス」という単純な評価ではなく、成果とのバランスで判断することです。
協働
チーム貢献やコミュニケーション、NG行動の有無です。フォロー・ナレッジ共有・改善提案といったチームへの貢献や、ハラスメント・コンプライアンス違反・無断残業などのNG行動がないかを評価します。
詳細は成果×時間マップで解説します!
残業時間は「リスクサイン」として扱う
残業時間は点数ではなく、「要フォロー」「要業務整理」のフラグとして扱いましょう。
健康リスクや法令リスク、マネジメントの歪みを示す信号としてチェックし、人事評価の前に面談・業務棚卸し・業務改善の対象として扱うべきです。厚生労働省の「働き方・休み方改善指標」では、週60時間以上労働者の割合と有給取得率を軸に、自社の問題度を評価する枠組みを提示しています。
なぜ残業が人事評価の中で高く評価されてしまうのか
定時に帰るより残業してる方が評価されるのはどうなんですか?
残業が評価されてしまう理由は、主に以下の3点です。
長時間労働=頑張りという思い込み
遅くまで残っている社員を「やる気がある」と評価する古い価値観が、今も根強く残っており「若いうちは残業してナンボ」という暗黙の了解が企業文化になっているケースも。また管理職自身が長時間労働の成功体験を持っているケースも多く、それが人事評価のアップデートを妨げている場合もあります。
働き方・休み方改善指標の社員向けハンドブックでは、「長く働く=頑張っている」という意識を問題として提示しています。
生活残業を生む賃金・評価の問題
基本給が低く、残業代込みで生活設計されている社員が多いと、生活残業が発生します。
厚生労働省の労働時間制度等に関する調査では、「残業時間を増やしたいと考える人」の理由は「残業代を増やしたい」が最多でした。多くの従業員が、生活のために残業をしていることが分かります。
【生活残業とは】生活費を補うために、本来必要のない残業を意図的に行うことです。業務量や効率とは関係なく、残業代を稼ぐことを目的としており、会社個人の双方に悪影響です。
長時間労働・上限規制と「残業評価」のギャップ
働き方改革・上限規制により、長時間労働は法令リスク・健康リスクが大きいですが、現場では「残業する人が評価される」文化が残っています。
厚生労働省の過労死白書などで「長時間労働の縮減」は繰り返し課題とされていますが、日本では依然として週60時間以上(月80時間残業ペース)働く層が一定割合存在します。
社会的には「長時間労働を減らす」流れですが、現場の運用が追いつかず「残業する人が頑張っているように見える」ギャップが起きているわけです。
どうすれば残業しなくても評価されるようになりますか?
成果と時間の2点を軸に評価するのが良いでしょう。詳しく解説します!
成果×時間マップで現状を把握する
まずは現状を可視化しましょう。横軸に成果、縦軸に残業時間を取り、「成果×時間マップ」を作ります。
| 成果/残業 | 残業が少ない | 残業が多い |
|---|---|---|
| 成果が高い | 理想ゾーン | 高負荷ゾーン |
| 成果が低い | 再設計ゾーン | 総点検ゾーン |
マップを描くと、4つのゾーンが見えてきます。
4つのゾーンの見方
高成果 × 低残業(理想ゾーン)
少ない労働時間で成果を挙げる、まさに理想的な人材です!ロールモデルとして社内で可視化し、働き方を横展開しましょう。
高成果 × 多残業(負荷大ゾーン)
成果は高いが負荷が大きく、業務配分・属人化の課題があります。健康リスクや法令リスクに注意が必要です。
残業を減らす工夫で「理想ゾーン」に移行できるようにサポートしましょう。
低成果 × 低残業(再設計ゾーン)
役割・期待値の再設計が必要なゾーンです。スキルアップや業務の見直しが必要か、面談で確認します。
このゾーンはモチベーションに課題があるケースもあります。
低成果 × 多残業(総点検ゾーン)
プロセス・配置・スキル全体を見直すべきゾーンです。業務の進め方、スキルマッチ、配置の妥当性を総点検します。
生活残業が発生している場合は、それを是正できる制度作りも必要になります。
おお!すごく分かりやすいです!
現状把握だけでなく、評価のフレームワークとしても優秀です!
マップから読み取る「残業評価」のヒント
マップは「残業が多い・少ない」単体で評価するためのツールではありません。ゾーンごとに評価方針と面談・業務棚卸しの優先順位を決めるための材料にします。
特に「多残業ゾーン」に対し、業務改善・制度ルール整備・意識改革を組み合わせた対策をお勧めします。
協働軸で人事評価の差をつける
マップは非常に参考になりますが、成果と時間だけで十分なんでしょうか?
成果と時間以外にも「働き方の質」も評価すべきです!
協働軸の定義について
協働軸は、成果と時間の使い方だけでは測れない「働き方の質」を評価する観点です。
具体的には次の3つを指します。
チーム貢献
フォロー・ナレッジ共有・改善提案・後輩育成など、チーム全体の成果を高める行動です。
信頼性
期日・約束・コミュニケーションを守り、周囲が安心して協働できる姿勢です。
NG行動の有無
ハラスメント・コンプライアンス違反・無断残業など、組織の信頼を損なう行動がないかをチェックします。
NG行動は評価マイナスとして扱います。パワハラ防止措置が企業の義務になっている(労働施策総合推進法)ことから、ハラスメント行為は重大なマイナス要因です。
協働軸を評価・昇格判断でどう使うか
協働軸を使うと、同じゾーン内でも評価の差をつけられます。
例えば以下のように差を付けます。
高成果×低残業ゾーン
協働軸が高い人は昇格候補・リーダー候補として扱い、協働軸が低い人は優秀プレーヤーだがマネジメント適性は慎重に判断します。
高成果×多残業ゾーン
協働軸が高い人はチームの火消しや支援を担っている可能性があり、協働軸が低い人は抱え込み・段取り不良で残業している可能性があります。
粗利率などの成果指標に加え、チームへの貢献(社内エンジニアに仕事を回して利益率を高める、空き時間を工場整備に充てる等)を評価項目化し、「協働的に成果を出す人材」を高く評価した結果、業務改善と育成が進んだ事例もあります。
なるほど!定性的な側面は協働性でカバーできるんですね!
次に残業時間をどう評価するか、解説します。
残業時間は「注意信号」と評価する
残業を評価でどう扱うかのルール
残業時間は「多いから即マイナス」「少ないから即プラス」とはしません。パターン別に扱い方を決めます。
低成果×多残業
業務の進め方・スキル・配置のいずれかに課題があるため、面談と業務棚卸しを優先します。
高成果×多残業
成果は出ているが健康・法令リスクがあるため、業務配分と属人化の解消を進めます。
「残業時間を評価指標にしない」という方針を、評価者間で共有しておくことが重要です。
多残業は「要フォロー」のサイン
多残業は、次の3つのリスクのサインと認識しましょう。
健康リスク
長時間労働は、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調の大きな要因になります。労働安全衛生法では、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者に対し、産業医面接指導の対象とし、本人への通知を義務付けています。
法令リスク
時間外労働の上限(月45時間等)を超え、特別条項36協定の範囲も逸脱すると、行政指導や企業名公表などのリスクが発生します。
チーム崩壊リスク
厚生労働省の好事例集では、特定社員への業務・残業の偏りが、モチベーション低下・離職につながる課題として紹介され、業務平準化・労働時間平準化が重要とされています。
生活残業は賃金設計・働き方のテーマ
「残業しないと生活できない」状態は、評価シートでは解決できません。基本給・固定残業・賞与の設計と、業務量・人員配置の見直しが必要です。
「残業代がないと生活できない」という状況が、生活残業を生みやすいことは、各種調査で証明されています。厚生労働省アンケートでも、「残業時間を増やしたい」理由の多くが「収入増のため」であり、基本給の低さや賃金設計が背景にあること分かります。
▼ 残業削減で失敗しないための給与設計は、以下の記事をご覧ください。
DX・RPAで残業データと評価制度をつなぐ
残業時間を「注意信号」として扱うには、正確なデータ把握が欠かせません。しかし、手作業での集計や申請管理には限界があり、評価制度との連携も難しくなります。
ここでは、DX・RPAを活用して残業データを見える化し、評価制度と実務を効果的につなぐ方法を解説します。
残業データの見える化
まずは、「なんとなく忙しそう」をやめて、数字で現状を把握するところからです。
部門別・個人別の残業を自動集計する
勤怠システムやタイムカードのデータから、以下の情報を自動で集計しましょう。
- 部門別の残業時間
- 個人別の残業時間
- 曜日・時間帯ごとの偏り
Excelに手入力して作るのではなく、RPAでデータを取り込み、集計・レポート作成まで自動化します。
これらを手作業で行うと、それが残業の原因になり、本末転倒な結果になりかねません。
経済産業省「DXセレクション2024」で紹介された中小製造業・三共電機(愛知県)では、ローコードアプリとクラウドフローで業務データを自動集計する仕組みを導入。その結果、間接業務の90%を自動化し、平均残業時間を月19時間まで削減、有給休暇取得率も80%に改善しています。
残業申請フローの自動化
次に「気づいたら残業時間が増えていた」を防ぐ仕組みづくりです。
事前申請・承認制をルール化/自動化する
残業は事前申請+上長承認を基本ルールにします。
これにより以下のポイントを意識できるようになり、「何となく残業」を減らすことができます。
- 何時から何時まで、どの業務のために残業するのか
- それは本当に今日やる必要があるのか
この申請・承認を、紙やメールではなくワークフローやRPAで回すことで、抜け漏れや属人化を防げます。
上限超過や申請漏れを自動アラートする
さらに以下の項目を自動検知し、上長や人事にアラートを飛ばす仕組みを入れておくと安心です。
- 月〇時間を超えそうな社員
- 36協定の限度に近づいている部署
- 事前申請なしで残業が発生しているケース
自動化の成果を評価制度に反映する
RPA・AI・DXによる業務削減・ミス削減の取り組みを、評価制度の「成果」「協働」に反映します。
成果軸
例えば以下のような実績は、成果軸でプラス評価できます。
- RPAで月次処理時間を30時間削減した
- 自動チェックでエラーが半減し、顧客満足度が向上した
協働
以下のような行動は、協働軸でプラス評価できます。
- チーム全体で使えるRPAツールを開発・共有した
- 業務改善プロジェクトを主導した
協働軸が高いメンバーをDX・業務改善プロジェクトの推進役として評価しやすくすることで、全社的な改善文化が育ちます。
DX・自動化の導入はURUにお任せください!
ここまで読んで、
- 残業データをちゃんと見える化したい
- RPAやAIで定型業務を自動化したい
- せっかくやるなら、人事評価や働き方改革ともセットで進めたい
と感じた方も多いはずです。
DX・自動化の導入は私たちにお任せください!
御社の現状ヒアリングから、残業データの見える化、RPA・AIの導入設計、人事評価とのつなぎ方まで、一緒に整理していきます。
社内の不安と反発にどう向き合うか
ここまで評価制度の設計方法を解説してきましたが、実際に導入する際には社内から不安の声が上がるかもしれません。特に多いのが「残業代が減って生活できない」「定時で帰る人が評価されるのは不公平だ」といった声です。
どんなに理にかなった制度でも、現場の理解と納得がなければ機能しません。
ここでは、代表的な不安とその対応方法を見ていきます。
「残業代が減る」不安への対応
いきなり「残業禁止」「残業代カット」はしないでください。「収入不安」を無視していきなり残業を削ると反発が出る可能性が高いからです。
対応策として、次の3つを段階的に進めると良いでしょう。
① 移行期間を設ける
評価制度の変更を告知してから、実際の給与反映までに半年〜1年の猶予を持たせます。この間に社員が働き方を調整できるようにします。
② 基本給の見直しとセットで進める
「残業代が減る分、基本給を段階的に引き上げる」「成果評価で昇給のチャンスを増やす」など、収入の安定策を同時に示します。生活残業層には、スキルアップ研修や役割拡張の機会を提供し、「残業なしでも稼げる力」を育成します。
③ 個別面談で丁寧に説明する
一律の説明会だけでなく、残業時間が多いメンバーには個別に事情を聞き、「あなたの場合、こういう移行プランがある」と具体的に示します。
管理職・従業員へのメッセージと対話
経営層が方針・目標を明確化し全社にアピールすること、働き方・休み方の改善を評価制度やルールに落とし込むことが重要です。
管理職には、「多残業=頑張り」ではなく「マネジメント課題」として見る視点を共有します。「多残業=頑張り」から「多残業=マネジメント課題」というメッセージを管理職に伝え、評価項目に「残業コントロール」「部下の有給取得支援」を入れましょう。
従業員には、「残業を減らしても、成果と協働で正当に評価する」というメッセージを繰り返し伝えます。実際に「定時で成果を出す人」を評価・表彰して見せることが効果的です。
まとめ|残業時間ではなく「成果×時間×協働」で評価する会社へ
残業時間そのものを人事評価の加点・減点指標にするのは、健康・法令・マネジメントの観点から望ましくありません。
「成果」「時間の使い方(生産性)」「協働」を評価軸とし、残業時間は「健康・法令・業務配分上の注意信号」として扱う方向が良いでしょう。
DX・RPAで労働時間と業務を見える化し、「短時間で成果を出す人」「協働的に改善に関わる人」を評価する制度設計は、実際に残業削減と業績向上を両立させている事例が多数存在します。
まずは以下のアクションを実行して、少しづつ文化を変えていきましょう。
- 成果×時間マップを描いて、現状を可視化する
- 多残業メンバーと1件面談し、業務の実態を確認する
- 協働軸の高い人に、小さな改善プロジェクトを任せてみる
▼ 残業削減の全体像について




