- 社員の残業が月45時間を超える月が何度もある
- 繁忙期には残業が100時間近い社員がいる
- タイムカードと実際の勤務時間に差がありそう
- 36協定は結んでいるが、上限規制のルールがよくわからない
- 法律違反で罰則を受けないか心配だ
本記事では、こんなお悩みを解決します!
前半では残業上限の基本ルールと36協定の関係を、後半ではサービス残業のリスクとDX・RPA・AIによる解決策を解説します。
結論|残業時間の上限は5つの数字で押さえる
残業時間の上限は、次の5つを押さえればOKです!
【原則】
- 月45時間(原則)
- 年間360時間(原則)
【特別条項付きの場合】
- 年間720時間(特別条項の上限)
- 複数月平均80時間以内(2〜6か月平均、休日労働含む)
- 1か月100時間未満(休日労働含む)
一般企業(建設業・自動車運転者・医師などの特例業種を除く)がこれらの上限を超えると、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
月・年間の残業時間の上限ルール早見表
残業時間の上限規制について、表にまとめてみました。
| 区分 | 項目 | 上限時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 原則 | 月の残業時間 | 45時間 | 労働基準法の原則上限 |
| 原則 | 年間の残業時間 | 360時間 | 時間外労働の年間合計の上限 |
| 特別条項 | 年間の残業時間 | 720時間 | 時間外労働のみ(休日労働含まず) |
| 特別条項 | 複数月平均 | 80時間以内 | 2〜6か月の平均(休日労働含む) |
| 特別条項 | 単月残業+休日労働 | 100時間未満 | 過労死ラインに近い水準 |
自社の危険度セルフチェックリスト
次の項目に当てはまるものはありませんか?
- 月45時間超の月が年7回以上ある社員がいる
- 繁忙期に残業+休日労働が100時間近い社員がいる
- 時間外労働が年間で720時間に迫る社員が出そう
- タイムカードと実際の勤務時間に大きな差がある
- 早朝出勤や持ち帰り仕事が常態化している
- 「36協定を超えるから」と残業申請を控える雰囲気がある
これらの項目に当てはまる場合、早めの対策が必要です。
▼ 業務を自動化して残業を大幅削減できる可能性があります。無料相談を実施中ですので、ぜひご活用ください。
そもそも「残業時間の上限」とは何か?法定労働時間と36協定の基本
法定労働時間(1日8時間・週40時間)と「残業」の定義
労働基準法で定められた労働時間の上限が「法定労働時間」です。
- 1日8時間
- 1週40時間
この時間を超えて働く時間が「時間外労働(残業)」です。
「所定労働時間」との違いに注意
就業規則で「9時〜17時(休憩1時間)」なら所定労働時間は7時間です。
この場合、17時〜18時は「所定外労働」ですが、法定労働時間8時間を超えていないため「法定時間外労働(残業)」ではありません。18時以降が法定時間外労働になります。
残業代の割増率も変わるため、この区別は押さえておきたいポイントです。
36協定がない会社は「残業させられない」理由
法定労働時間を超えて働くには、労使協定(36協定)を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定の基本
- 正式名称は「時間外・休日労働に関する協定」
- 労働基準法第36条に基づくため「36(サブロク)協定」と呼ばれる
- 従業員代表との書面による協定が必要
- 所轄の労働基準監督署への届け出が必要
36協定を結ばずに残業させると労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の可能性があります。
重要なのは「36協定を結べば何時間でもOK」ではない点です。2019年4月(中小企業は2020年4月)から、36協定で定める残業時間にも上限が設けられました。これが冒頭の「5つの数字」です。
これらのルールについて、詳しく見てきましょう。
残業時間の上限ルール①|残業上限規制の基本ルール
働き方改革関連法により、時間外労働の上限は原則として月45時間・年間360時間と定められました(休日労働は含みません)。
これは「毎月45時間までOK」という意味ではありません。
12か月すべて45時間残業すると年間540時間となり、年間360時間の上限を超えます。
正しくは「年間360時間以内に収め、そのうえで単月は45時間を目安にする」という考え方です。
閑散期の残業を減らし、繁忙期に少し増やすなど、年間のバランスを見る必要があります。
原則上限を超えるには特別条項が必要
月45時間や年間360時間を超える残業が必要な場合、「特別条項付き36協定」を結ぶ必要があります。
ただし特別条項を結んでも、無制限に残業できるわけではありません。特別条項には厳格なルールがあります(詳しくは次のセクションで解説します)。
変形労働時間制の注意点
1か月単位や1年単位の変形労働時間制を採用している場合、残業時間の計算方法が若干変わります。
基本的な考え方は「変形期間を平均して週40時間以内」ですが、変形労働時間制の詳細な設計や残業計算は専門的な内容のため、導入を検討する際は社会保険労務士などの専門家に相談をおすすめします。
残業時間の上限ルール②|特別条項付き36協定について
「臨時的な特別の事情」がある場合、特別条項付きの36協定を結べば、月45時間・年間360時間の原則上限を超えられます。
ただし、以下のルールは絶対に守る必要があります。
- 時間外労働は年間720時間以内(休日労働は含まない)
- 月45時間を超えられるのは年6か月まで
- 時間外労働と休日労働の合計が、複数月(2〜6か月)平均80時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が、1か月100時間未満
条件は全て満たす必要があります。つまり特別条項があっても、時間外労働は年間720時間まで(休日労働は含まない)、かつ時間外+休日労働の合計で複数月平均80時間・単月100時間未満を守る必要があります。
複数月平均80時間ルールについて
2か月、3か月、4か月、5か月、6か月それぞれの残業時間の平均が、すべて80時間以内である必要があります(休日労働含む)。
例えば以下のケースの場合、4-7月の4か月では平均65時間ですが、6,7月の2か月で平均残業時間は85時間となり、平均80時間ルール違反となります。
| 対象月 | 時間外労働時間(休日労働含む) |
|---|---|
| 4月 | 30時間 |
| 5月 | 60時間 |
| 6月 | 90時間 |
| 7月 | 80時間 |
特別条項が認められるケース・認められないケース
特別条項が認められるのは「臨時的な特別の事情がある場合」とされています。
認められる例
- 予算
- 決算業務の繁忙期
- ボーナス商戦に伴う業務量の増加
- 納期の逼迫した受注が突発的に発生
- 大規模なクレーム対応
- 機械トラブルへの対応
認められない例
- 慢性的な人手不足
- 恒常的な長時間労働
- 年間を通じて常に忙しい状態
「臨時的」というのが重要なんですね
常に残業が多い場合は、根本的に業務量を改善する必要があります!
建設業・運送業・医師などの特例は”必ず個別確認”
2024年4月から、建設業・自動車運転者・医師にも残業上限規制が適用されました。
ただし、これらの業種には一般則とは異なる特例があります。
自動車運転者の例
- 年間上限は960時間
- 複数月平均80時間、月100時間未満のルールは適用されない
建設業や医師にも特例があるため、該当する方は厚生労働省の業種別特設サイトで最新情報を確認ください。
サービス残業と36協定|サービス残業も「残業時間」にカウントされる
サービス残業の定義と「指揮命令下」の考え方
サービス残業とは、労働時間として記録されず、賃金も支払われない残業のことです。
厚生労働省は「賃金不払残業は、労働基準法に違反する、あってはならないもの」と明確に定めています。
サービス残業の典型パターン
- タイムカードを押した後に仕事を続ける
- 始業前の準備作業を申告しない
- 休憩時間中に電話対応や来客対応をする
- 持ち帰り仕事をしている
- 「みなし残業時間」を超えても申告しない
重要なのは、会社が黙認していれば「指揮命令下の労働」と見なされること。
従業員が自主的に残っているように見えても、会社がその業務を認識し、特に制止していない場合、労働時間としてカウントされる可能性があります。
サービス残業の危険なシナリオ
例えば以下のケースがあるとします。
社員Aさんは実際に月60時間の残業をしているが、「月45時間を超えると上司に怒られる」と思い、45時間と申告している。会社側は「うちは上限規制を守っている」と思っているが、実態は違反している。
このケースでは、以下の二重のリスクがあります。
未払い残業代のリスク
実際の労働時間分の賃金を支払っていないため、労働基準法違反に該当します。
上限規制違反のリスク
記録上は45時間でも、実態が60時間なら残業上限規制違反に該当します。
やばい…サービス残業してました
サービス残業は非常にハイリスクなので、絶対にやめましょう!
残業上限を守れないとどうなる?会社と個人のリスクについて
会社が負う法的リスク|是正勧告・罰則・企業名公表
残業上限規制に違反した場合、一般的には以下のような流れで行政対応が進むことが多いです(ケースによって順序や内容は変わります)。
行政対応の一般的な流れ
- 労働基準監督署の調査: 定期監督、申告監督(労働者からの通報)、災害時監督などで実施
- 是正勧告: 違反が確認された場合、文書で改善を指導
- 再監督: 是正されたか確認
- 書類送検: 悪質なケースや是正されない場合、検察庁に送致
- 罰則: 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 企業名公表: 重大・悪質な事案については企業名が公表される
実際に、大手企業でも長時間労働による書類送検や企業名公表の事例があります。
企業名が公表されると、採用難・取引先からの信用低下・株価への影響など、罰金以上のダメージを受ける可能性があります。
従業員が負うリスク|過労死・健康被害
残業時間の上限規制は、「過労死ライン」と密接に関係しています。
過労死ラインの基準
脳・心臓疾患の労災認定基準では、以下の条件を満たす場合、業務起因性が強いと判断されます。
- 発症前1か月におおむね100時間
- 発症前2〜6か月平均でおおむね80時間
この数値は、上限規制の「時間外+休日労働が月100時間未満」「時間外+休日労働が複数月平均80時間以内」と一致しています。
つまり上限規制の限界ラインは、過労死リスクが高まる水準でもあります。
従業員個人が負う健康被害リスク
長時間労働が続くと、健康被害が発生する可能性があります。
- 脳・心臓疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)
- 精神疾患(うつ病、適応障害など)
- 過労死・過労自殺
- 慢性的な体調不良、免疫力低下
- 家族との時間喪失、人間関係の悪化
従業員が過労死したら
従業員が過労死・過労自殺した場合、会社は以下のリスクを負います。
- 労災認定による補償
- 民事訴訟による損害賠償(数千万円〜億単位)
- 安全配慮義務違反としての刑事責任
- 企業イメージの失墜
「うちは特別条項があるから大丈夫」と思っていても、過労死が発生すれば、安全配慮義務違反として会社の責任が問われます。
残業上限を守るための3ステップ|見える化→ルール→運用
残業上限を守る取り組みは「現状分析→ルール整備→運用」の3ステップで進めましょう。
ステップ1|人別・部署別に月・年間の残業上限超過の予兆を見える化
まず取り組むべきは正確な現状把握です。具体的な方法をご紹介します。
① 過去12か月の残業時間データを抽出
人別・部署別・月別の残業時間(休日労働時間を含む)データを抽出します。
② 5つの数字との照合
①のデータを基に、月45時間超が年7回以上、時間外労働が年間360時間超・720時間超など、残業上限規制の5項目を超過しているか確認します。
③ サービス残業の兆候チェック
サービス残業は①のデータからは確認できません。
「タイムカード打刻前後のメール送信履歴」「退勤後・休日のPC起動ログ」「持ち帰り仕事の有無(アンケート等で確認)」を調査しましょう。
この段階で「思ったより危険な状態だった」と気づくケースは少なくありません。
ステップ2|36協定・就業規則・評価制度を棚卸しする
現状が見えたら、制度面の見直しです。
① 36協定の内容確認
締結日と有効期限(1年ごとに更新が必要)、特別条項の有無と「臨時的な事情」の記載内容、限度時間の設定(月45時間・年360時間になっているか)を確認します。古い協定のまま放置されていないか、特別条項の理由が形骸化していないかをチェックしましょう。
② 就業規則の確認
残業申請・承認のルールが明記されているか、サービス残業禁止が明文化されているか、健康配慮措置の記載があるかを確認します。ルールがあっても実態と乖離している場合は、現場の実情に合わせた見直しが必要です。
③ 評価制度の見直し
「労働時間」ではなく「成果」を評価しているか、残業削減を評価項目に入れているかを確認します。「遅くまで残っている人=頑張っている人」という評価軸が残っていると、残業削減は進みません。
中小企業庁の事例では、「評価制度を見直し、残業時間ではなく生産性を評価する仕組みに変えた」ことで、残業削減につながった企業が紹介されています。
ステップ3|現場が使える運用ルールとコミュニケーション
制度を整えても、現場で実行されなければ意味がありません。
① 残業事前申請制
残業を事前に申請し、上司が承認して初めて残業可能とするルールです。事後申請では残業理由が曖昧になりやすく、上限管理も後手に回るため、必ず事前申請の仕組みを作りましょう。
② 月間残業時間のアラート
月30時間・40時間・45時間到達時に自動でアラートメールを送信し、本人・上司・人事部門に通知する仕組みです。問題が顕在化する前に、早期に介入できる体制を作ります。
③ ノー残業デーの設定
毎週水曜日を全社一斉退社日とするなど、強制的に定時で帰る日を設定します。店長や管理職が率先して帰ることで、部下も帰りやすい雰囲気が生まれます。
④ 管理職向け研修
上限規制の基礎知識、残業理由の確認方法、サービス残業の見抜き方を管理職に教育します。現場のマネージャーが正しく理解していなければ、どんな制度も機能しません。
⑤ 従業員向け周知
「45時間を超える前に相談してください」「サービス残業は絶対にしないでください」「困ったことがあれば人事部門に相談を」と、従業員に繰り返し伝えます。一度の周知では浸透しないため、定期的なリマインドが重要です。
東京都の事例集では、「管理職が定時に帰ることで、部下も帰りやすくなった」「残業理由を明確にすることで、不要な残業が減った」という報告があります。
DX・RPA・AIで「残業上限違反リスク」を減らす3つのシナリオ
デジタル技術で残業管理を自動化したり、業務の効率化で残業時間を減らす方法も有効です。
勤怠データ×自動アラートで月・年間の残業上限超過を事前にキャッチ
人力での残業管理には限界があります。DX・RPA・AIを活用すれば、リアルタイムで残業状況を監視できます。
自動アラートの仕組みは、以下の通りです。
1. データ抽出と自動集計
勤怠システムから毎日自動でデータを抽出し、RPAが人別・部署別の残業時間を集計。5つの数字(月45時間、年360時間、年720時間、複数月平均80時間、月100時間未満)と照合します。
2. 段階的な自動通知
閾値を超えたら自動で関係者に通知する仕組みを作ります。例えば、月30時間到達で本人と上司にメール、月40時間到達で人事部門にも通知、月45時間接近で経営者にエスカレーション、複数月平均70時間超で要注意アラートを発信します。
3. AIによる予測と可視化
さらにAIを活用すれば、過去のパターンから「今月は〇〇さんが危ない」と予測したり、部署ごとの残業傾向を可視化したりできます。
導入効果
問題が起きてからではなく起きる前に対応できるため、管理職の負担が軽減され、全社的な残業時間の把握も容易になります。エクセルでの手作業集計から解放され、本質的なマネジメントに時間を使えるようになります。
バックオフィス業務をRPAで自動化し、残業の土台を削る
「残業削減」というと現場の効率化に目が行きがちですが、実はバックオフィスの定型業務こそRPA化の効果が大きい領域。毎月必ず発生する締め作業や集計業務は、人が手作業でやる必要がない仕事の典型例です。
以下のような業務は特に自動化しやすいですよ。
経理業務
- 請求書の発行・送付
- 経費精算のチェック
- 会計システムへのデータ入力
- 月次決算資料の作成
人事業務
- 勤怠データの集計
- 給与計算の補助業務
- 社会保険手続きの書類作成
- 入退社手続きの一部
総務業務
- 各種レポートの作成
- データの転記・突合
- メール送信業務
- ファイル整理
厚生労働省の好事例集では、「業務システムの刷新により、帳票処理時間が50%削減された」「RPA導入で月末の残業時間が大幅に減少した」という事例も紹介されています。
自社に合うDX・RPA・AI導入の進め方
「DX・RPA・AIに興味はあるが、何から始めればいいかわからない」という声をよく聞きます。
導入は以下の3ステップで進めましょう。
現状診断
まずは残業時間の多い部署・業務をリストアップし、定型業務と非定型業務を切り分けます。その上で、RPA化できそうな業務を洗い出し、「この業務を自動化すれば月何時間削減できるか」を試算します。この段階で効果が見込めない場合は、別のアプローチを検討すべきです。
詳細はこちらテスト導入(PoC)
1〜2業務で小さく試し、実際にどれだけ削減できたかを効果測定します。同時に問題点も洗い出し、本格導入前に改善策を検討します。この段階で「思ったより効果が出ない」「現場が使いこなせない」といった課題が見えてくることが多いため、焦らず検証することが重要です。
詳細はこちら本格導入
テスト導入で効果が確認できたら、対象業務を拡大し、社内への展開を進めます。運用ルールを確立し、「誰が何をメンテナンスするのか」「トラブル時の対応フロー」を明確にしておくことで、導入後の定着率が大きく変わります。
詳細はこちら特に以下のような課題を抱えている方は、早めに相談することで時間とコストを節約できます。
- 残業上限違反リスクを根本から解消したい
- 人を増やさずに業務効率を上げたい
- DX推進を本気で考えているが、何から手をつければいいかわからない
まとめ|残業時間の上限を「守るルール」から「会社を強くする仕組み」へ
本記事の要点をまとめて復習しましょう。
残業上限規制は5つのポイントで覚える
時間外労働は月45時間・年360時間が原則。特別条項を結んでも時間外労働は年720時間まで、時間外+休日労働は複数月平均80時間・月100時間未満を守る必要があります。
サービス残業も上限にカウントされる
タイムカードと実態の乖離は危険。会社が黙認していれば指揮命令下の労働とみなされ、上限規制の対象になります。
違反時のリスクは会社・個人両方に
会社は罰則・企業名公表・損害賠償、従業員は過労死・健康被害をそれぞれ負う可能性があります。
実務は4つのステップ
見える化で現状を正確に把握し、ルールで制度を整え、運用に落とし込み、DX・RPA・AIで仕組み化する。この順番を守ることが成功の鍵です。








